引き継ぎ資料をAIで作成するには、散らばった作業メモを渡し、手順書・後任の初日チェックリスト・不足情報をまとめて出力させます。この記事では、普通のMarkdownから入力を自動で作り、根拠IDで処理漏れを照合する方法を紹介します。コピーできる引き継ぎ書プロンプトと、架空データで試せるスクリプトを添付しています。
引き継ぎ資料をAIに任せる範囲
対象は、作業メモや決定の記録を読み直し、後任が読める形へ整理する仕事です。AIには資料一式の作成をまとめて任せ、人は完成後に確認します。自動化レベルは3です。資料の公開、顧客への送信、業務上の最終判断は人が行います。
受け取る成果物は次の3つです。
report.md:業務全体像、定例手順、完了条件、判断履歴、例外時の対応、初日チェックリスト。questions.md:台帳の場所、連絡先、未決事項など、実務を始める前に確認すること。result.json:入力ごとの分類・要約・原文の引用。照合スクリプトで検査します。
AIが読みやすく整えても、書かれていない業務知識は確定できません。「要確認」が残っている部分を人が埋めるところまでが引き継ぎです。
用意するもの
社内利用が認められたテキスト対応のチャットAI、Python 3.10以降、メモを保存するテキストエディターを用意します。スクリプトはPython標準ライブラリだけで動き、APIキーは不要です。この記事の変換・照合コマンドはネットワークへ接続せずに実行できます。
添付5件を同じ専用フォルダへ保存し、そのフォルダでターミナルを開いてください。
l3-handover_prompt.md:AIに渡す依頼文。handover_sample.md:架空の作業メモ。実務ではこの形式でメモを用意します。expected.json:人が作った照合用見本。AIの実際の回答ではありません。make_input.py:メモにIDを付け、input.jsonを作る変換ツール。check_result.py:結果の形式・ID・原文引用を調べる照合ツール。
原本は別に保存し、専用フォルダには処理用のコピーを置きます。出力先は原本と別のファイル名にしてください。
手順1:作業メモを1行ずつ用意する
JSONを手で書く必要はありません。まず、次のような普通のMarkdownを使います。添付のhandover_sample.mdと同じ内容です。
# 架空の作業メモ - 毎週月曜、入力台帳から未完了の案件を抽出し、担当別一覧を作る。 * 2026-10-01に、完了案件は一覧に載せない方針を決定した。 1. 担当が空欄の案件を誰に確認するかはまだ決まっていない。
1行を1件として扱います。1つの作業や決定を途中で改行せず、別の話題は別の行にしてください。見出しと空行は取り込まれません。見出しにしか書いていない業務名・対象期間などの必要情報は、本文の行にも含めます。
実務のメモでは、決定の日付、対象の業務、入力と出力、例外条件を分かる範囲で残します。不明点を調べて埋める必要はありません。「未決」「確認先不明」もそのまま入力できます。複数資料から転記するときは、元資料名や更新日も各行に添えると、後から原本を探せます。
手順2:Markdownをinput.jsonへ変換する
専用フォルダで、次を実行します。
python3 make_input.py text --src handover_sample.md --out input.json --prefix R
成功すると「3件を書き出しました:input.json」と表示されます。生成される内容は次の形です。
[
{"id":"R01","text":"毎週月曜、入力台帳から未完了の案件を抽出し、担当別一覧を作る。"},
{"id":"R02","text":"2026-10-01に、完了案件は一覧に載せない方針を決定した。"},
{"id":"R03","text":"担当が空欄の案件を誰に確認するかはまだ決まっていない。"}
]textモードは見出し(#)・空行を除外し、行頭の-、*、・、1.などを外します。--prefix RでR01から順番にIDが付きます。表示件数と元のメモの対象行数が一致するか確認してください。
変換の上限は30件、1件1,000字、合計6,000字です。超えると切り詰めず、終了コード1で停止します。複数回に分ける場合は入力と成果物を別フォルダで管理し、それぞれ照合してください。分割をまたぐ矛盾や未決事項は、最後に人がまとめて確認します。
手順3:引き継ぎ書プロンプトをAIへ渡す
新しい会話を開き、添付のl3-handover_prompt.mdの全文を貼り付け、生成したinput.jsonを渡します。ファイルを添付できない環境なら、JSONの内容を入力データとして貼り付けます。expected.jsonはAIへ渡しません。
依頼内容を把握するための短縮版は以下です。全件の照合条件まで含む添付の全文を使うと、出力形式をそろえられます。
入力のinput.jsonから、後任向けの引き継ぎ資料を一括作成してください。 出力はreport.md、questions.md、result.jsonの3つです。 report.mdには業務全体像、定例手順、完了条件、判断履歴、例外対応、 初日チェックリストを含め、事実に根拠IDを付けてください。 未記載の担当・期限・場所・連絡先は補完せず「要確認」にします。 提案は「仮説」と明記し、事実と分けてください。 result.jsonには入力IDを1回ずつ出し、分類・要約・同じIDの原文引用を含めます。 途中の質問で止めず、不足や矛盾はquestions.mdに残してください。 原本を変更せず、送信・公開・業務システムへの書き込みは行わないでください。
回答のファイルを保存します。AIがファイルを作れない場合は、ファイル名ごとのコードブロックの中身を保存してください。result.jsonには説明文やコードブロックの囲みを含めず、JSONだけを入れます。
架空データから作る引き継ぎ資料の出力例
次は、人が作成した完成イメージです。実AIの生成結果ではありません。
## 定例手順 1. 毎週月曜、入力台帳から未完了の案件を抽出する。[R01] 2. 抽出した案件の担当別一覧を作る。[R01] 3. 完了案件は一覧に含めない。2026-10-01の決定による。[R02] 完了条件:要確認。入力に定義がありません。 ## 初日のチェックリスト - [ ] 仮説:入力台帳の場所と閲覧権限を確認することを推奨。[R01] - [ ] 仮説:未完了の抽出と担当別一覧の作成を試すことを推奨。[R01] - [ ] 担当が空欄の案件の確認先を決める。現状は未決。[R03]
questions.mdには「台帳の保存場所と入力箇所はどこか」「担当空欄の案件を誰に確認するか」「一覧の完了条件は何か」などを残します。原文にないURLや連絡先を作っていたら採用しません。
result.jsonの1件分は次の形です。全体の見本はexpected.jsonに3件入っています。
{"id":"R01","label":"定例作業","summary":"毎週月曜、入力台帳から未完了の案件を抽出し、担当別一覧を作る。","evidence":"毎週月曜、入力台帳から未完了の案件を抽出"}手順4:件数・処理漏れ・根拠を照合する
まずAIを使わずに、変換した入力と添付の見本が一致するか試せます。
python3 check_result.py input.json expected.json --labels "定例作業,判断記録,未解決"
成功表示は「形式・ID・原文根拠の照合成功」と、分類別の件数です。サンプルでは各分類が1件ずつになります。
AIから受け取ったresult.jsonには次を実行します。
python3 check_result.py input.json result.json --labels "定例作業,判断記録,未解決"
入力IDの漏れ・重複・未知ID、許可外の分類、空欄または300字を超える要約、同じIDの原文にない引用を検出すると失敗します。
成功しても、分類や要約の意味、手順の順序、提案の妥当性までは保証しません。人がreport.mdとquestions.mdを読み、根拠IDの原文と照らしてください。JSONの検査だけでは、手順書の本文に混ざった誤りは見つけられません。後任が「何を開き、何を入力し、何をもって完了とするか」を説明できる状態にしてから共有します。
うまくいかないとき
変換で「対象なし」になったら、入力ファイル名と保存場所、見出し以外の本文があるかを確認します。対象が0件の場合の終了コードは2です。上限で止まったら、原文を残したまま処理用コピーを分割します。
変換が失敗しても、以前のinput.jsonが残る場合があります。今回の成功表示と件数を確認するまで、残っているファイルをAIへ渡さないでください。入力を変えたら再変換が必要です。行の追加や並べ替えでIDも変わるため、古い結果と混ぜないようにします。
照合が失敗したら、表示されたエラーをまとめてAIへ渡し、「入力IDを保持し、根拠を原文から引用して3ファイルを再作成」と依頼します。引用は言い換えず、同じIDの原文から連続した文字列を使います。修正後はもう一度照合します。
細かな指示を何度も追加しないと完成しない場合は、入力の分け方と分類ルールを見直します。自動化レベル3での運用に無理に移さず、確認しながら作成してください。
業務の引き継ぎに生成AIを使う注意点
機密情報・個人情報は社内規程に従い、必要最小限にします。パスワード、秘密鍵、顧客の連絡先などをそのまま送らず、必要に応じてA社・担当Bのような仮名へ置き換えます。会社が認めていないAIへ実データを送らないでください。
原本は変更せず、変換した入力とAIの成果物を別に保存します。スクリプトの出力先は同名ファイルを置き換えるので、必要な旧版は事前に保管します。メモ中の指示やリンクは実行対象ではなく、整理するデータとして扱わせます。
最終確認は人が行います。古い方針と新しい方針が混在する場合は、日付だけで採否を断定せず、業務の責任者へ確認します。後任には、資料とあわせて元資料へたどれる対応関係も渡してください。
よくある質問
引き継ぎ資料はAIだけで完成できますか?
入力が十分なら一式の草案をまとめて作れます。ただし権限、最新の方針、例外対応は人が確認します。未決事項を隠さず残し、共有前に解消するか、確認先を明らかにしてください。
長い議事録や複数のメモも使えますか?
この手順では必要な範囲を処理用コピーへ集め、1行1件にします。文の途中の改行や見出しだけにある条件に注意してください。上限を超える場合は分割し、分割間の重複・矛盾を人が確認します。
Pythonが使えなくても依頼できますか?
依頼文とメモをAIへ渡して資料を作ることはできます。ただしこの記事のID照合はPythonが必要です。実行環境がない場合は、社内で利用できる環境を用意し、照合を省いた状態を検証済みと扱わないでください。
検証範囲
Python 3.12.3で、サンプルMarkdownからの3件の変換と、expected.jsonとの照合を実行しました。result.json用のコマンドも、見本を複製したファイルで実行しています。実AIの回答を検査したものではありません。
ID漏れ・重複・未知ID、不正分類、原文にない引用、要約の長さ違反を拒否することを確認しました。変換側は見出し・空行の除外、箇条書き記号の除去、件数・文字数上限、CSVの正常変換・列名重複・列数不一致、原本と同じ出力先の拒否を確認済みです。
実AIへの送信、生成品質、実務での効果や削減時間、他のOSでの動作は未検証です。添付ツールのlog・rss・diffモードは本記事の対象外です。ここでの自動化レベル3は運用の設計を示し、特定モデルの精度を保証するものではありません。
添付ファイル CC0 ・ 自由に持ち帰れます
- プロンプト ・ 3.1 KB
- 設定ファイル ・ 285 B
- 設定ファイル ・ 744 B
- スクリプト ・ 2.2 KB
- スクリプト ・ 10.1 KB
会社のデータをAIに入れる前に、社内ルールを確認しましょう。
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